腎移植内科研究会

腎移植内科研究会・第3回学術集会

腎移植後に自己腎の腎細胞がんを発症した1例


◯石井 太祐、宮内 隆政、松本 直人、小林 沙和子、伊藤 雄俉、山本 博之、瀧 史香、二ツ山 みゆき、長浜 正彦、小松 康宏
聖路加国際病院 腎臓内科

【症例】 57 歳男性(主訴)全身倦怠感(現病歴)糖尿病性腎症による末期腎不全に対して、2012 年 7 月に妻(51 歳)をドナーとした生体腎移植(ABO 適合・HLA5 ミスマッチ)を施行。 2016 年 3 月より慢性的な腰痛、 腹痛が出現。全身倦怠感・腹痛のため 6 月 13 日に入院。造影 CT 検査にて左腎門部腫瘤、多発リンパ節腫脹、多発肝腫瘤を認めた。 悪性腫瘍の診断目的で鼠頸部リンパ節生検を施行。対症療法で一時退院したが、全身倦怠感が増悪し 7 月 7 日に入院。 (バイタルサイン)体温 36.4℃(身体所見)左腰背部の自発痛、叩打痛なし(検査所見)WBC 14200/mcl、CRP 3.27mg/dl、Cr 1.8mg/dl、タクロリムストラフ値 10.5ng/ml(経過)生検結果から 腎細胞がん stageⅣの診断で、腫瘍内科併診。補液により ECOG Performance Status 2 まで改善し、ご本人の希望もあり 7 月 21 日よりスニチニブ 25mg/日で加療を開始。 その後も症状は改善傾向だったが、7 月 27 日に呼吸困難・酸素化低下が出現し、KL-6 上昇と肝胆道系酵素上昇あり。 スニチニブの副作用を考慮して同日で投与終了し、緩和治療を中心とする方針とした。7 月 30 日に 心室細動による心停止となった。蘇生処置を継続したが心拍再開せず、 ご家族と相談の上で蘇生処置を中止し、死亡退院となった。

【考察】 腎細胞がんは腎移植後の発生リスクが高い。頻度の高い後天性多嚢胞化腎からの発がんは進行が緩徐と される。一方、頻度は低いが進行の速い腎細胞がんの発症も知られている。 費用対効果を示したスクリ ーニングはないが、腎移植後患者では悪性腫瘍の可能性を考慮する必要がある。