遺伝性腎疾患における生体腎移植ドナー適応
【緒言】慢性的なドナー不足を背景に、いわゆるMarginal donorからの腎提供が多いことから、2014年の生体腎移植ドナーガイドラインでMarginal donor 基準が提言された。しかしこの基準を満たしても遺伝性腎疾患に対し生体腎移植を行う場合、ドナー及び家族の将来的な腎不全発症リスクの評価が必要である。遺伝性腎疾患における生体腎移植のドナー適応の検討を要した2例を経験したので報告する。【症例1】レシピエント候補は61歳男性(原疾患:多発性嚢胞腎)。腎不全の家族歴有り。20歳代より腎機能障害を指摘され、44歳時に腹膜透析導入。51歳時にPD腹膜炎により血液透析へ移行。家族に対して妻は高度肥満、糖尿病(内服加療中)のためドナー候補となりにくいと説明したところ、長女(32歳女性、未婚、未経産)をドナー候補とすることを希望した。長女の嚢胞腎発症リスク、腎提供後の妊娠合併症リスク及び社会的影響に関して慎重に検討を行い、まずはMarginal donorであるが妻が候補となる可能性を模索する方針となった。【症例2】レシピエント候補は38歳男性(原疾患:メサンギウム増殖性腎炎)。幼少時より血尿・蛋白尿を認め、腎生検にて上記診断、経過観察されていた。妻をドナーとした先行的生体腎移植を希望し移植外来受診。外来後より感音性難聴を認め、濃厚な家族歴(兄弟が維持透析中)も判明した。以前の腎生検を再評価し、alport症候群が強く疑われ、皮膚生検で確定診断に至った。長女も血尿を持続して認めていたが、X染色体連鎖型であるため腎不全発症リスクは低いと考え、妻をドナーとして生体腎移植を行う方針となった。【結語】生体腎移植ドナーガイドラインにおいても遺伝性腎疾患に関しては言及されていない。ドナー及びその家族が将来的に遺伝性腎疾患による腎不全を発症する可能性がある場合には、腎提供後に生じうる不利益、即ちドナーの発病だけでなくドナーの子供の発病を十分に評価した上で、生体腎移植を進めていく必要がある。