健常人(移植ドナー)、糖尿病性腎症及び非糖尿病性腎症における各種推算糸球体濾過率の有用性の比較・検討
2聖マリアンナ医科大学 腎泌尿器外科
【はじめに】腎移植レシピエントは片腎故に低腎機能(CKD)であり、CNIやRAS阻害薬など腎血行動動態に影響を与える薬剤を多く内服している。また糖尿病性腎症患者への腎移植も増加しており、以上は造影剤腎症(CIN)のリスクとしても知られている。腎移植患者への造影剤を用いた画像検査の頻度は決して少なくないと考えられ、心血管疾患合併症や悪性腫瘍の精査のためには必要不可欠な検査である。現在欧米を含め移植患者の造影剤腎症について詳細に検討した報告は少ない。そこで、当院における腎移植後レシピエントに対して造影剤を使用した症例より特徴やリスクを検討する。
【方法】当院で2008年から2014年に腎移植を行った生体および献腎移植患者85名中、造影剤を使用した検査を行った患者は14名であった。その中で造影剤使用後48あるいは72時間後に採血が取られていた患者8名(のべ造影回数11回)について検討した。CINの定義は48-72時間以内に血清Cr値が0.5 mg/dL以上の増加もしくはeGFRの25%以上の低下を満たすものとした。患者基礎情報、造影理由、造影剤使用量、併用薬、予防の有無について検討した。
【結果】対象8名中、糖尿病性腎症を原疾患とする患者は1名、女性1名のみであった。のべ11回の造影理由はCAG/PCIが3回、腹部造影CTが3回、頭部や移植腎AVFに対するangiographyが5回であった。のべ11回の造影前のCr: 1.18±0.28, eGFR: 52.6±15.4であったが、造影後はCr: 1.28±0.30(P=0.03), eGFR: 47.7±11.8(P=0.054)と腎機能は低下傾向にあった。全体ではeGFR差は-5.5±7.6 ml/min/1.73m2、eGFR低下割合は-8.3±10.3%であった。しかしCINの定義を満たす患者は1名(11回中9%)のみであった。造影剤使用前の腎機能、予防の有無は造影後腎機能低下に関係していなかった。
【まとめ】造影剤使用後はやや腎機能が低下傾向にあるものの、明らかなCIN症の発症は少なかった。欧米人と比較してより低腎機能である本邦のレシピエントにおいて、今後症例数を増やし、さらに検討を進める必要があると考えられる。