移植腎における尿細管上皮細胞HLA-DR発現と抗体関連型拒絶反応発症との関連性
【背景】移植後新規ドナー特異抗体(de novo donor specific antibody: dnDSA)は全腎移植患者の約30 %に出現し、非出現例に比して移植腎喪失率が高い。dnDSA出現の臨床的危険因子としてnon-adherenceやHLA-DRミスマッチ等が報告されているが、機序については不明な点が多い。近年、T細胞性拒絶反応(T cell-mediated rejection: TCMR)からdnDSA出現を経て、抗体関連型拒絶反応(Antibody mediated rejection: ABMR)へ進展することが示唆されている。TCMR時には、尿細管上皮細胞にMHC-class ⅡであるHLA-DRが高発現することが知られており、同抗原がdnDSA出現やABMR発症に関連していることが推測される。
【目的】移植後尿細管上皮細胞へのHLA-DRの発現とTCMRの発症が、その後のABMR発症と関連するかを検討する。
【対象・方法】対象は2005年1月から2009年12月に東京女子医科大学泌尿器科で行われた生体腎移植症例のうち、18歳未満と既存DSAを有する症例を除外した212人。移植後6ヶ月以内の腎生検標本により尿細管上皮細胞へのHLA-DR発現を蛍光抗体法で評価、さらにその後のTCMR発症の有無でDR+TCMR+群(N=28)、DR+TCMR-群(N=70)、DR-TCMR+群(N=15)、DR-TCMR-群(N=99)に分類し、ABMR発症率、移植腎廃絶率についてKaplan-Meier法、log-rank検定で解析した。
【結果】ABMR発症率はDR+TCMR+群がDR-TCMR-群に比べ有意に高かった(5-year cumulative prevalence 10.2% vs. 6.4%, p = 0.0284 by the log-rank test)。移植腎喪失率も同様に両群で有意差を認めた(10-year graft survival, 89.0% vs. 99.0%, p = 0.0081 by the log-rank test)。HLA-DR陽性例での検討ではTCMR+群のほうが、TCMR-群に比べABMR発症しやすい傾向であった(5-year cumulative prevalence 10.2% vs. 6.0%、p = 0.1049 by the log-rank test)。HLA-DR発現とTCMR発症が同時期に確認された症例は、DR+TCMR+群の75%(21/28)であり、他25%(7/28)は、その後全例1年以内にTCMRを発症することが確認された(1-11ヶ月)。
【結論】腎移植後6か月以内の尿細管上皮細胞におけるHLA-DR抗原発現とTCMR発症は、ABMR発症率および移植腎喪失率と関連する可能性が示唆された。また、DR+TCMR+群では、DR発現と同時または直後にTCMRを発症している事が確認され、DR発現が、TCMRの誘因となっている可能性が示唆された。