Alport 症候群が原疾患と想定されていた レシピエントにおけるドナー選定を考慮した 遺伝子診断によって BOR 症候群と特定した1例
【症例】 47 歳男性。出生時より両側難聴があり、原因不明の末期腎不全のため Alport 症候群(AS)の暫定的診断にて 32 歳時に血液透析導入となった。
47 歳時に生体腎移植希望で当科受診となった。父に難聴・蛋 白尿があり、母は強皮症・リウマチの既往はあるが尿異常や難聴がないために
AS の典型例である伴性劣性遺伝(父が AS かつ母が保因)の可能性と、非典型的な常染色体優性(父が AS)/劣性遺伝(父が AS かつ母が保因)も考えられた。
上記理由のためにドナー候補は姉(49 歳)となったが、糸球体性血 尿(難聴なし)を認めたため AS との関連を否定できず腎生検を施行した。
IV 型コラーゲンの免疫染色の異常欠損は認めなかったが、糸球体基底膜菲薄化を認め AS の関与が完全には否定できなかった。
姉 をドナー候補として許可すべきか判断に迷い、レシピエントおよびドナー候補の姉、父、母、父方叔母 の遺伝子検査を施行した。
5 名には AS の原因遺伝子である COL4A3/COL4A4/COL4A5 遺伝子には病因 となり得る明らかな変異を認めなかったものの、
レシピエントと父のみに EYA1 遺伝子のヘテロでの全欠失が疑われた。以上よりレシピエントの原疾患は鰓弓耳腎(Branchio-oto-renal:BOR)症候群との診断に至った。
BOR 症候群は、常染色体優性遺伝を呈する疾患で、頸瘻・耳瘻孔などの鰓原性奇形、難聴、 腎尿路奇形を 3 主徴とする。
姉の血尿の原因は菲薄基底膜病と判断し、ドナーの長期予後のリスクは低いと判断、
またレシピエントの原疾患も Alport 症候群以外の未知の原疾患含め再発の可能性のある疾患でないことも確認できたため、今後姉をドナーとした生体腎移植を進めていく方針とした。
【まとめ】 難聴をきたす末期腎不全は AS のみならず BOR 症候群も念頭に置く必要があり、耳瘻孔など特徴的な所見が重要である。
過去に確定診断のついていない遺伝性疾患が疑われる症例では、ドナー適格性を判断するためにも遺伝子検査を含めた検索を行うことも検討される。