腎移植内科研究会

腎移植内科研究会・第3回学術集会

生体腎移植直後に尿崩症が顕在化した 汎下垂体機能低下症の1例


◯石井 龍太1、金子 修三1、臼井 丈一1、高橋 一広2、斎藤 知栄1、山縣 邦弘1
1筑波大学医学医療系 腎臓内科、2筑波大学医学医療系 消化器外科(移植外科)

症例は 36 歳女性。5 歳時に鞍上部悪性胚細胞腫に対して化学療法 +全脳照射後を受けた後に汎下垂体機能低下症を併発した。 10 歳時左胸腔内に再発した悪性胚細胞腫に対して行った化学療法(シスプラチン) による薬剤性腎障害を発症し、その後慢性腎不全に移行した。
末期腎不全へと進行し、今回父親をドナ ーとする生体腎移植を施行した。術直後より 10L/日以上の多尿を認め、手術翌日 Na165mEq/L の高 Na 血症と尿浸透圧 170mOsm/kg と低値を認めた。 中枢性尿崩症が疑われ、デスモプレシン(DDAVP)点鼻 を開始し、血清 Na 濃度低下、尿浸透圧上昇を認めたが、術後の補液下で過度の Na 濃度低下にもシフト しやすく DDAVP の投与量は安定しなかった。しかし術後の時間経過とステロイドの急速漸減により、 DDADP 投与なしの自由飲水下(口渇感あり)で血清 Na 濃度は基準範囲、 尿量 3000-4000ml/日で安定した。その後尿路感染時にステロイド静注した際には一過性多尿を来した。
腎移植術直後に、著明な多尿と高 Na 血症進行を呈し尿崩症が顕在化した 1 例を経験した。 下垂体機能低下症を伴った末期腎不全症例は尿崩症がマスクされている場合があり、移植周術期に注意が必要と考えられた。 移植された機能腎(腎性)と術中術後の大量ステロイド投与による ADH 抑制(中枢性、狭義の仮面尿 崩症)の 2 つが、仮面尿崩症の機序として想定されるものの、 詳細を検討した報告はない。既報例の経過ならびに本症例で後日行った負荷試験(飲水制限、高張食塩水負荷、5%ブドウ糖負荷)の結果から ADH 分泌能、 移植腎の ADH 応答についても考察を加えて報告する。