腎移植後、Preemptive therapy を行うも CMV 網膜炎を発症した抗 CMV IgG D+/R+の一例
症例は 49 歳女性。IgA 腎症由来の慢性腎機能障害で 2015 年 12 月に腹膜透析を導入し、2017 年 3 月 9 日、夫からの ABO 不一致生体腎移植を行った。サイトメガロウイルス(CMV)抗体はレシピエント・ ドナー共に IgG(+)であった。
同年 6 月 CMV アンチゲネミア法 C10C11 が 30 から 50 と上昇したため、バルガンシクロビルによる内服加療を 6/28 から 9/12 まで行い陰性化を 2 回確認した。しかし、治療中止 10 日後から再び C10C11 で 1~4 程度陽性が続いたが、タクロリムスの濃度調整を行い経過観察していた。
同年 11 月 16 日、左目の視野のぼやけと飛蚊症が出現し、眼底所見から CMV 網膜炎の疑いで入院となり、前房水の CMV PCR 陽性をみとめ確定診断に至った。MMF 投与量を減量、ガンシクロビル静脈内投与(5mg/kg/day)を 3 週間行った結果、眼底所見の改善傾向を認めたため、バルガンシクロビル 900mg/day 内服に変更し退院となった。
維持療法として約 3 か月間、バルガンシクロビル内服継続後に中止とし、その後も視力低下や飛蚊症の増悪なく、再発を認めていない。
腎移植後 CMV による臓器障害の中で、網膜炎はまれであるが、進行性で視神経乳頭に病巣が拡大すると回復が困難な重篤な視力低下をきたす疾患であるため、早期診断と早期治療介入が重要である。また、抗 CMV IgG D+/R+、かつ preemptive therapyを行った際の CMV disease の発症頻度は非常に低いとされている。
本例は、低リスク にもかかわらず網膜炎を発症していることから、従来の serostatus のみでのリスク分類では評価不十分である可能性も示唆された。