不安定狭心症のために生体腎移植が 2 回延期となった症例における冠動脈リスク評価
【症例】67 歳男性
【主訴】ふらつき
【現病歴】 X 年 3 月に配偶者をドナーとする生体腎移植を予定していた。 X 年 1 月不安定狭心症に対し、 経皮的冠動脈インターベンションが施行され、左前下行枝#7 に薬剤溶出型ステントが留置されたため腎移植は延期となった。X 年 2 月にも透析後に冷汗を伴う胸痛を認め、冠動脈造影によりステント留置部前後で限局的な攣縮を認めたため冠攣縮性狭心症と診断し内服治療を開始した。X 年 9 月に行った追跡造影検査では有意狭窄を認めなかったことから X+1 年 2 月に腎移植を予定した。X+1 年 1 月、血液透析後帰宅途中にふらつきと冷汗を認めた。冠動脈造影によりステント遠位端に再狭窄を認め、冠動脈拡張術が施行され、腎移植は再度延期となった。
【考察】冠動脈疾患は末期腎不全患者にとって大きな問題である(Ann Vasc Dis. 2017 10: 327–337)。Framingham risk score は冠動脈疾患のリスク評価に用いられている。しかし末期腎不全患者には正確性に欠けるため、末期腎不全患者に特化した福原らのリスク評価が提案されている(PLoS One. 2017 e0173468)。本症例の X 年 1 月のリスクを評価するために X-10 年のデータを基にして計算した Framingham risk score は 6 点、10 年以内の虚血性心疾患発症確率は 10%であった。X-1 年のデータを基にした福原らのリスクモデルでは 7 点、一年間予測冠動脈イベント発症確率は 10.9%であった。腎移植レシピエント候補の冠動脈疾患発症確率の目標についてはコンセンサスが得られていないが、本症例では発症確率 10%が危険であることが分かった。今後さらに症例を蓄積していくことでレシピエント候補の冠動脈疾患発症確率の目標が明らかになる可能性がある。