日本腎移植内科研究会

腎移植内科研究会・第4回学術集会

タクロリムスのトラフと AUC とに解離を認め borderline change をきたした一例


○森田 元、垣田 浩子、林 綾乃、櫻木 実、平井 大輔、遠藤 知美、鈴木 洋行、武曾 惠理、塚本 達雄
公益財団法人 田附興風会医学研究所 北野病院

【症例】 44 歳女性。以前より学校・職場健診にて時折尿所見異常を指摘されていたが、X-17 年の第 1 子の妊娠後より尿所見異常が持続したため X-16 年に腎生検を施行し IgA 腎症と診断された。1 g/gCre 程度の蛋白尿が持続し腎生検にて活動性病変を認めたため、ステロイド加療を行ったが徐々に腎機能低下が進行し、X 年 11 月に血清 Cre 7 mg/dLにて ABO 適合、preemptive の夫婦間腎移植を行った。1 hour biopsyでは超急性拒絶反応を疑う所見は認めなかったが、ドナーの年齢に比して強い動脈硬化性変化を認めた。導入期の免疫抑制剤はステロイド、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、バシリキシマブを使用し、タクロリムス、MMF、プレドニンで維持とした。術後の経過は良好で血清 Cre 1 mg/dL前後で推移し、尿所見異常も認めなかった。タクロリムスの AUC は 50 ng/mL・h と低かったが、トラフが 9-10 ng/mL と高値であり、移植腎の動脈硬化性変化も強かったため、増量せずに経過をみていた。腎移植後 3 ヶ月時点でのプロトコール腎生検にて Banff 分類 t1、i1 の borderline change を認め、細動脈に持ち込みの動脈硬化性の硝子化変性は認めたが、タクロリムスの毒性を疑う尿細管の空胞変性は認めなかった。ステロイドパルスを施行し、後療法プレドニン 20 mg、タクロリムスは AUC 50 ng/mL・ h にて経過をみているが、腎機能低下や蛋白尿の増悪なく経過している。居住地が当院から遠方のため、自宅近くの医療機関と当院とで連携診療を継続している。

【考察・結語】 タクロリムスは AUC を推定するマーカーとしてトラフ値を測定して用量調整が行われる。本症例では AUCに比してトラフ値が通常より2倍程度高く、AUCに合わせたプログラフの増量を躊躇したために、 borderline の拒絶を認めたと考えられた。トラフ値がコントロール範囲より高値であっても適正な AUC を指標としてタクロリムスの血中濃度を保つべきであったと考えられた。